米国:環境保護庁による火力発電所への排出規制について

掲載日:2024年5月10日

4月25日、米国環境保護庁(EPA: Environmental Protection Agency)は、大気浄化法(Clean Air Act)に基づく、火力発電所からのGHG排出を含む汚染物質に対する最終基準及びガイドラインについて発表した。

既存の石炭火力発電所および新規の天然ガス火力発電所(既存のガス火力発電所を除く)からのGHG排出を90%抑制とし、現在計画段階にある発電所も今般の規制への適合に取り組む必要があることになる。

石炭火力発電所の水銀・大気有害物質基準(Mercury and Air Toxics Standards: MATS)の強化については、今般の新規則により既存排出基準を67%強化し、既存の褐炭火力発電所からの水銀排出基準を70%削減と規定。また、石炭火力発電所からの廃水を通じて排出される汚染物質についても規制は強化され、従来、連邦政府の管理対象外であった石炭灰の安全管理についても義務付けられることとなった。

EPAが公開しているデータによれば、2023年末の時点で合計186ギガワットに相当する、全米の38州184施設400基が、新設・改修・再建発電所への温室効果ガス排出基準(Carbon Pollution Standards for new, modified and reconstructed power plants: CPS)およびMATSの対象となる可能性が高いとされている。

本規則は、昨年5月11日に発表された原案に対してのパブリックコメントやエネルギー業界等との調整を経て最終基準・ガイドラインの公表に至ったものである。今回、多くのステークホルダーの論争の的となっているが、長期運転中の既設石炭火力発電所および新規ベースロード燃焼タービンの最良の排出削減システム(BSER)は、炭素回収・貯留(CCS)に該当するものと判断され、2039年以降も稼働する発電所においては2032年までに90%の回収率となるCCSを実施することとし、1年前の案の公表時よりも緩和されたものとなった。

本規則において今後州政府は、この基準・ガイドラインに基づき2年以内に州の実施計画を提出する必要がある。他方、本年11月の米大統領選の潜在的な影響を浮き彫りに、本公表に対する共和党側からの批判も激しく、現地報道によると、トランプ前大統領は選挙キャンペーンにおいて同規則を取り消すとの発言をしており、共和党政権復活の場合、本新規制見直し或いは、訴訟の対象になる可能性が高いと見る向きもある。しかし、今般のEPAによる最終規則の公表は、発電所分野での米国の政策展開のマイルストーンになるものである。

(ワシントン事務所 三田部 真理)

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