米国:EPAの火力発電所に係る排ガス規制に対する司法関連動向

掲載日:2024年8月9日

7月23日付地元記事によると、環境保護庁(EPA)が出した火力発電所に係るGHG排出規制(2024年5月10日付:米国:環境保護庁による火力発電所への排出規制についてhttps://coal.jogmec.go.jp/info/docs/240510_6.html参照)に対して起こされていたEPAの一連の規制の執行停止を求める訴訟に関し、ワシントンDC巡回控訴裁判所は7月19日に命令を発出、請願者は裁判所の審理を待つ間、規則の執行停止を求める厳しい要件を満たしてないとしてこの訴えを却下した。

他方、この判決に不服とした25州の司法長官は23日に連邦最高裁判所に緊急抗告状を送付した。同緊急抗告はジョン・ロバーツ最高裁判所判事の前で保留されている。州側はワシントンDC巡回控訴裁判所が多くの訴訟を未決のまま放置しており、炭素回収貯留(CCS)のような技術に関する決定を下すには時間が必要だとしている。ロバーツ最高裁判事はD.C.巡回控訴裁判所に対する控訴管轄権があり、この要請を却下するか、全法廷に回付するか、あるいは迅速なスケジュールでさらに審理を進める間、短期間の一時的な停止を出すことができる。

緊急抗告状にはこの規制はCCSのような十分に技術的に実証されておらず、商業的確立にも至っていない技術を実行不可能な時間枠で強制して発電所を引退に追い込むもので、石炭火力発電所を強制的に廃炉にする裏口的な手段であり、EPAは権限を踏み越えて明確な議会の権限もないため、このルールは成り立たないと述べている。

CCSに関しては、EPAは米国内で少なくとも15件のCCSプロジェクトが稼働し、121件のCCSプロジェクトが建設・開発段階にある事を挙げているが、新たにCCS付の発電所を建設する場合、CAPEXが2倍以上、OPEXも35%増加し、エネルギー価格を2倍にする可能性がある、と州側は警告している。また炭素を回収、利用するための輸送パイプラインも必要となり、EPAは5,000マイルと見積もっているが、プリンストン大学の調査では66,000マイルのパイプラインが必要とし、保守的な試算では電力会社はパイプラインのために125億ドル以上を投資しなければならないと指摘する。

最後に各州は発電所から発生するCO2の市場について疑問を呈している。CO2の用途に石油増進回収(EOR)があるが、多くの州でEORは制限されている一方で、報告書では回収されたCO2の市場の95%はEOR用途になっており製品市場が存在するか疑問視している。

(石炭開発部 宮崎 渉)

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