米国:EPAの火力発電所に係る排ガス規制に対する司法関連動向(続報)

掲載日:2024年12月20日

12月6日付の欧州のメディアによると、米国ウェストバージニア州(WV州)司法長官は、コロンビア特別区巡回区連邦控訴裁判所に対し、米国環境保護庁(EPA: Environmental Protection Agency)が今年4月に発表した既存の石炭火力発電所と新規のガス火力発電所に対する排出規制を違法と宣言するよう求め、異議申し立てを行った。
 
同州司法長官によると本規則は、2022年6月に同州が訴訟した「WV州対EPA」において、EPAは狭い規制条項を使用して石炭火力発電所を一斉に廃止に追い込むべきではないと米国最高裁判所が警告した判決を無視したものとなっているという。
 
この新規則はバイデン大統領が最終決定し、大気浄化法(Clean Air Act)に基づく火力発電所からのGHG排出を含む汚染物質に対する最終基準となる。石炭火力発電所に対しては、2039年以降に運転を続ける場合には2032年までにGHGの排出量を90%削減するよう義務付ける内容となっており、CO2回収・貯留(CCS)を通じた目標達成も可能としている。
 
本最終基準へ繋がる、新規の火力発電所に対する初めてのCO2規制案は、オバマ政権時の2012年にEPAから発表され、2015年に最終基準が公表された。しかしその後の第一次トランプ政権では、オバマ大統領の計画はEPAの権限を超えていると判断していた。
 
その後、2024年4月のバイデン政権による火力発電所からの排出に係る最終基準の公表後に、WV州を含む25州が本規制を明確にし執行停止をするよう要請した訴訟に対して、2024年7月にワシントンの連邦控訴裁判所が規則の執行停止は要件を満たしておらず、EPAは広範な規制を導入できるとの判決が下された(2024年8月9日付:EPAの火力発電所に係る排ガス規制に対する司法関連動向https://coal.jogmec.go.jp/info/docs/240809_3.html参照)。
 
これに対してWV州および石炭産業に係るその他の州や業界団体は再び最高裁に上訴したが、2024年10月、米最高裁は、異議申し立てした州および電力業界等からの訴訟期間中の差し止め要求を認めない判断を示している。
 
本規則に係る訴訟が繰り返されてきた中、11月の大統領選挙で翌年からのトランプ政権発足が決定し、これにより本規則の撤回が見込まれるという見通しが報道されている。法廷関係者によれば、大統領就任式の2カ月前では判決が出ない可能性もあるとされ、裁判所が判決を下す前に、EPAは当該訴訟を保留とするよう求める可能性が高いとのことである。
 

(石炭開発部 福水 理佳)

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