ドイツ:早期石炭火力廃止の前提となる水素対応ガス火力発電所の大規模拡張計画を断念

掲載日:2024年12月20日

12月11日付の欧州のメディアによると、ドイツ経済省は、政治的な支援が得られなかったため、水素対応ガス火力発電所の大規模な拡張計画を断念したと発表した。欧州委員会と交渉していた拡張計画に関する最終法案は、オラフ・ショルツ首相の三党連立政権が崩壊したため、議会で採決できなかったことが要因である。

ドイツは、当初の予定より8年早い2030年までに石炭火力発電を段階的に廃止するため、後に水素による稼働を見込んだガス火力発電所を建設したいと考えていた。ドイツは昨年、原子力発電から撤退し、再生可能エネルギーを急速に拡大させており、水素対応ガス火力発電所の拡大計画は、風力と太陽光発電の供給が減った場合に電力網を支えるためのものであった。

また、ドイツ政府はこの水素対応ガス火力発電所の入札を2025年前半に開始し、2030年までに最初の発電所を稼働する計画をしていた。この発電所の建設に関し、2045年までに約170億ユーロかかることについても、すでに欧州委員会と合意済みであったという。

ドイツは現在、自国と欧州の近隣諸国に厳しい結果をもたらす危機に直面している。ドイツが順調に拡大させている再生可能エネルギー発電は、気象状況による電力生産への悪影響がもたらされ、ここ数週間の電気料金の高騰を引き起こしている。これは11月に「Dunkelflaute(暗い凪)」と呼ばれる日差しが弱く風が吹かない天候の期間が異例に長引いたことで、再エネ発電量の減少分を化石燃料による発電で代替えしたことによるものである。ドイツは電力の大半を再生可能エネルギーで生産しているため、Dunkelflauteの時期には問題となり、再生可能エネルギーの脆弱性を浮き彫りにしている。

また、ドイツに端を発し、欧州域内のエネルギー価格の高騰を引き起こしている。2023年4月にドイツが国内の原子力発電所を閉鎖したことや、前述の風力発電の大幅な減少、ガス価格等の要因が電気料金の急騰となった。スウェーデンとノルウェーといった安価なエネルギーを供給するスカンジナビア諸国でも国内電力価格が高騰し、スウェーデンとノルウェーは欧州の電力網から離脱することを検討している模様である。

このような状況下、エネルギーに対する安全保障のために、ドイツ政府による化石燃料に対する最近の見解も変化がみられる。2021年末に発足したショルツ首相の連立政権では、10年以内に化石燃料による発電を止めることで合意していた。しかし、今月初旬に発表された報告書において、ドイツ経済省は石炭の段階的廃止は2030年代の初め頃からなされるべきだと述べていたが、13日、ロバート・ハーベック副首相兼経済・気候相は、石炭火力発電所を閉鎖できるのは電力網の十分なバックアップがある場合のみであるとして、石炭火力発電の2030年までの早期段階的廃止計画に対し疑問を呈する発言をした。

ドイツは2022年に勃発したウクライナ戦争によってロシアからの安価な天然ガスの供給が途絶え、代わりにノルウェーや米国からの高価な天然ガスを輸入しているがそればかりに頼ることは経済的に困難であったため、11月の電力量全体のうち30%以上を石炭火力からの電力に依存した。ドイツは激しく長い原発議論の結果、2023年4月に国内の原子力発電完全停止を達成したが、11月のデータによると、輸入電力量の内、18%を主にフランスからの原子力発電で賄っているという皮肉な状況になっている。

ドイツ連邦議会(下院)は12月16日、ショルツ首相の信任投票を行い否決した。来年の2月に解散総選挙が実施されることになる。12月9日に現地で公表された、ドイツにおける来年の総選挙に対する世論調査では、保守系野党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)の支持率が優勢であるとのことである。道徳的に優位に立つだけでは安価でクリーンな、かつ安定したエネルギーの実現は難しい局面となっているドイツにとって、環境保護を全面的に押し出していた政策を今一度検討する時が来ているかもしれない。

(石炭開発部 福水 理佳)

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