カナダ:ビスタ炭鉱拡張計画、連邦の審査対象とならず、承認される

掲載日:2024年12月20日

 12月9~12日地元記事によると、6日、連邦のカナダ影響評価庁(Impact Assessment Agency of Canada:IAAC)は、5年間にわたる検討の結果、Vista炭鉱拡張計画は評価対象とはならないとして、承認することを発表した。
 
このVista炭鉱拡張計画は豪炭鉱企業Coalspur Mine Ltd(以下Coalspur社)がアルバータ州中西部ヒントン近郊で操業するVista一般炭炭鉱において進める露天掘り拡張及び坑内掘り開発計画である。計画ではベルトコンベア、石炭貯蔵庫、鉄道施設等の既存インフラを使用し11年間稼働させるもので、1日当たり石炭生産量は21,000トン以上に増加し、北米最大級の一般炭炭鉱となる見込みとなっている。
 
ただし、現在の環境影響評価法(Impact Assessment Act:IAA)により、拡張後の石炭生産能力が1日5,000トン以上となる、または既存炭鉱拡張が採掘面積を50%以上増加させる場合にはIAACの評価が義務付けられている。
 
そもそも本拡張計画はアルバータ州エネルギー規制局(AER)へ申請され、州の管轄で環境評価が為されていた。一方、連邦政府はIAAを2016年に施行、それを根拠に連邦政府の審査対象とすることとした(2021年10月14日付:ビスタ炭鉱の拡張工事は、連邦政府の審査の対象となるhttps://coal.jogmec.go.jp/info/docs/211014_4.html参照)。2021年6月にウィルキンソン環境大臣(当時)は「提案されている拡張は連邦管轄内で容認できない環境影響を引き起こすことは明らかである。」とCoalspur社に対する書簡で述べている。
 
しかし、Coalspur社はこの評価の必要はないと訴訟を起こし、2023年10月、最高裁はIAAが州の管轄権を侵害し違憲であるという判断を下した(ニュース・フラッシュ:2023年10月17日付 連邦最高裁、連邦の影響評価法(IAA)を違憲との判断https://mric.jogmec.go.jp/news_flash/20231017/179365/参照)。その後IAAは見直しされているが、本案件の審査の判断は中断しており、現ギルボー環境大臣は判断をIAACに委任していた。今回IAACは採掘作業エリアが44%と50%に達しない事から、連邦政府の評価基準を満たさず評価対象外と判断、計画が承認されるに至った。
 
なお、今回の決定に対しては環境保護団体や野党の新自由党(NDP)から失望が拡がっている。トルドー自由党政権は2021年6月「Canadian Net-Zero Emissions Accountability Act」を施行し、遅くとも2030年までの一般炭輸出停止を目指す事を公表していた。少なくとも2036年までの生産継続を承認した今回の決定は、そのスケジュールを大幅に遅らせるものであると批判されている。
 

(石炭開発部 宮崎 渉)

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