米国:EPA、オバマ政権およびバイデン政権時代の石炭政策を再検討する計画を発表

掲載日:2025年4月4日

3月12日、米国環境保護庁(U.S. Environmental Protection Agency: EPA)のリー・ゼルディン長官は、オバマ政権およびバイデン政権時代に導入された31件の環境規制を見直す計画を明らかにした。これには、米国内の石炭火力発電所への大気汚染規制となる「クリーン・パワー・プラン2.0」、水銀および大気有害物質基準(Mercury and Air Toxics Standards: MATS)、排水規制、石炭灰に関する州の許可プログラムや石炭灰規制の見直しなどの石炭関連規制が含まれる。また、義務的な温室効果ガス報告プログラム (Greenhouse Gas Reporting Program: GHGRP)の実施も再検討するとしている。

まず、クリーン・パワー・プラン2.0は、火力発電所から排出される温室効果ガスの削減を定めた大気汚染規制であり、CCSを設置できない既存石炭火力発電所は2032年以降の操業を停止することとなっている。そのためいくつかの石炭火力発電所は、二酸化炭素の排出を回収して地下貯留するCCSに投資している。しかし、この新興技術はコストが高く、地下パイプラインなどのインフラも必要となり、現在商業規模のCCSを採用している石炭火力発電所はない。EPAは前政権によるこの規制は権限が行き過ぎており、米国における手頃で信頼性の高い発電を停止させ、米国家庭の電気料金を引き上げ、外国からのエネルギーへの依存度を高めようとする試みであると懸念する声が多く上がっているとし、再検討するとしている。

次に米国の23州から訴訟を起こされたMATS規則は、発電のために石炭を燃やした際に空気中に放出される重金属やその他の有毒物質の排出を制限するためのものであり、トランプ政権は、EPAが規則制定プロセスを進める間、影響を受ける発電所に対して大気浄化法第112条(i)(4)項に基づき、2年間の遵守免除を検討している。

また、2024年に施行された、蒸気発電業界に対する排水制限ガイドラインおよび基準 (Effluent Limitations Guidelines and standards: ELGs) は、蒸気の生成によって発電する発電所に適用され、発電施設で生成される4種の廃水(排ガス脱硫廃水、ボトムアッシュ輸送水、燃焼残留浸出水、およびレガシー廃水)に対する厳格な排出基準となっている。EPAは、この排水規制を改訂し、水質浄化法に基づいて国の水資源を保護しながら、信頼性が高く、手頃な価格の電力を確保するための措置を行うと発表している。

更に、EPAは石炭灰に関する州の許可プログラムを見直し、州政府機関が州独自の状況に合わせた石炭灰プログラムを確立できるように、州内の石炭灰の管理監督に取り組むことを奨励している。さらに従来の石炭燃焼残留物管理施設規則についても今後1年以内に本規則の変更を完了することを目指しているという。

この他にも、EPAは義務的なGHGRPを再検討していると発表した。EPAは、大気浄化法に基づく 他のすべての義務的な情報収集とは異なり、GHGRP は潜在的な規制に直接関係しておらず、規則のために開発されたものでもないとし、米国内の8,000を超える施設とサプライヤーに、毎年排出量を計算して報告することを義務付けている本プログラムが数億ドルの費用がかかることを指摘し、環境改善に顕著な効果をもたらすために、この費用をもっと有効に活用できるはずだと考えている。

バイデン前大統領は2039年までに米国のほぼすべての石炭火力発電所の閉鎖を強制する規制を課したが、トランプ大統領は方針を転換している。トランプ政権は、エネルギー生産を急増させ、米国の国際競争力を高める取り組みの一環として、石炭火力発電所の操業を継続し、休止中の石炭火力発電所の一部を再稼働させることを目的とした一連の新政策を発表した。

現地メディアによると、米国ではおよそ210基の石炭火力発電所が現在も稼働しており、その多くは廃止される予定となっている。だが、ウェストバージニア州にある石炭団体では、トランプ大統領が石炭火力発電を復活させると公約したことを受け、今年閉鎖予定だった40カ所以上の石炭火力発電所が現在は稼働を続ける予定であるという。各州も、ベースロード石炭火力発電所を送電網に維持する必要性を認識しており、2025年2月現在、アーカンソー州、ワイオミング州、ウェストバージニア州、ケンタッキー州、ネブラスカ州、ユタ州は、既存の発電を保護する法律を可決したという。

米国の電力供給と電力網の信頼性の両方を改善するための取組の一環として、トランプ政権およびEPAは、既存の石炭火力発電所の稼働を継続し、このベースロード発電源を拡大し、米国の増大する需要に対応できるかどうかを再考する必要があると考えている。

(石炭開発部 福水 理佳)

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