英国:経営難のブリティシュ・スチール、英国政府の緊急救済法案が成立し操業継続へ

掲載日:2025年4月18日

英国政府は、 中国企業Jingyeが所有する英国の製鉄会社ブリティッシュ・スチールを救済するための特別措置に対する法案が、4月12日の英国臨時議会で承認されたことを発表した。

これにより英国政府は、英国北西部リンカンシャーにある、ブリティッシュ・スチール社のスカンソープ高炉の操業を継続するよう指示する権限が与えられる。併せて、製鋼用の原材料を発注し、労働者への賃金支払いを指示することが認められることになる。また、高炉施設のための支援資金は、今後5年間で業界再建を進めるために25億ポンドの英国の鉄鋼基金から提供される予定である。

メディアによると、これまでの経緯として、2020年にブリティッシュ・スチール社を買収したJingye社は、事業維持のために12億ポンド以上を投資してきたが、高炉を稼働させることはもはや経済的に不可能であり、最大2,700人の雇用が危険にさらされていると述べている。

同社は英国政府との数か月の交渉および英国政府からの5億ポンドという資金援助の申し出を受けていたが、更なる公的資金を要していたため折り合いがつかず、同高炉を即時閉鎖する意向であったという。また、Jingye社は英国での事業は維持するために、中国からスラブを供給したい考えであった。

これに対し、レイノルズ英国ビジネス・貿易大臣は、英国において鉄鋼が「慎重に扱うべき分野」であるとして、今後「自ら中国企業を英国の鉄鋼業界に参入させることはない」と述べている。また、同大臣は、国有化への可能性については依然として検討対象にとどまり、今回の緊急救済法案の範囲はより限定的であるとし、ブリティッシュ・スチール社の所有権が英国政府に移るわけではないと説明している一方で、ブリティッシュ・スチール社に投資する民間企業はいないだろうとも述べている。

英国で唯一鉄鋼を生産できる高炉が直ちに停止されれば、製鉄業の安全確保、雇用の保護だけでなく、国家安全保障やサプライチェーンにおいても深刻な危険にさらされることになるが、英国政府は、温室効果ガス排出量削減目標達成のために、2015年に国内すべての坑内掘り炭鉱を閉山とした。その後2024年11月14日、英国政府は新たな石炭採掘計画を禁止すると発表しており、現在では国内石炭生産はごくわずかである。そのため、英国では製鉄に必要な原料炭を豪州、米国、EUといった海外諸国から賄っているが、ロシアによるウクライナ侵攻によるエネルギー資源に対する各国への影響や、最近の米国のドナルド・トランプ大統領による関税導入といった、昨今の世界経済の不安定さは、英国内の鉄鋼業界の保護も困難にさせているといえる。

尚、4月15日付の英国政府の公表によると、高炉の稼働を維持させるために米国へ代金を支払い、ドックで待機していた原材料の荷揚げが可能となったこと、また、豪州からの原料炭が英国に向けて輸送中であるため、製鉄に必要なコークスおよび鉄鉱石ペレットを確保し、数週間の高炉稼働維持に十分な状況であると述べている。

(石炭開発部 福水 理佳)

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