米国:ウェストバージニア州、炭鉱労働者保護のための健康監視プログラムを維持する暫定的命令を下す

掲載日:2025年5月30日

現地メディアによると、5月13日、米ウェストバージニア州南部地方裁判所のアイリーン・バーガー判事は、国立労働安全衛生研究所(National Institute of Occupational Safety and Health:NIOSH)呼吸器保健部門が実施している石炭労働者健康監視プログラム(Coal Workers Health Surveillance Program:CWHSP)の閉鎖は、炭鉱労働者への取り返しのつかない損害を与えるとし、連邦保健福祉省(US Department of Health and Human Services:HHS)が行った人員削減により、閉鎖に追い込まれたNIOSH呼吸器保健部門の雇用を回復するよう職員解雇の仮差止命令を出した。

バーガー判事はこの人員削減に対する取消し命令の他に、連邦政府が新設した政府効率化省(Department of Government Efficiency:DOGE)によって実施されている組織再編を行う場合でも連邦鉱山安全保健法(Mine Safety and Health Act)で義務付けられたすべての業務は「一時停止、停止、中断」することなく継続すること、また、HHSのロバート・F・ケネディ・ジュニア長官に対して、連邦政府が本命令に対する遵守を示す証明書類を20日以内に裁判所に提出する指示を命じている。

本件は、NIOSH呼吸器保健部門内のCWHSPの閉鎖をめぐり、連邦政府に対するウェストバージニア州の炭鉱労働者による集団訴訟の係争中訴訟の一環となるものであり、2025年4月21日にウェストバージニア州南部地方裁判所へ提起されていた。連邦政府側の弁護士らは、NIOSHの業務は最終的にHHSの管轄下において、組織再編された形で復活する見込みであり、CWHSPおよびNIOSH内の他の部署の閉鎖は一時的なものだと主張している。CWHSPをはじめとするNIOSHの多くの職員は、この連邦レベルで行われている組織再編の影響により4月から休職中であるため、人員不足に陥っているという。さらに、DOGEが導入したコスト削減策の一環として、ほとんどの職員の永久解雇が6月と7月に予定されていたとし、解雇対象者数は合計約900人に及んでいたとされる。NIOSHの職員がいないことから、全米の炭鉱労働者は、重篤な呼吸器疾患である炭肺病(炭坑夫塵肺症)診断検査結果の認定をNIOSHから受けることができないでいる。この認定はCWHSPに基づき、炭肺病を発症した炭鉱労働者が炭鉱内のより健康な場所で作業を継続する資格を得るために必要であり、この資格を得ることで、賃金の減額や、労働時間や福利厚生の削減といった雇用主からの報復を受けることなく、炭鉱内のより粉塵の少ない別の場所への異動が可能となる。また、4月に予定されていた、鉱山労働者のシリカ粉塵(天然化合物で通常の石炭粉塵の20倍の毒性を持つ)への曝露を制限することになる連邦労働規則の施行は、4月からのNIOSHの人員削減により8月に延期されているという。

米疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)の推定によると、ウェストバージニア州を含む中央アパラチア地域の炭鉱労働者の約20%が炭肺病に罹患しており、これは過去25年以上で最も高い割合であるという。近年、炭肺病は若年層の炭鉱労働者で増加している。これは、かつて容易に採掘できた炭鉱深度では十分な石炭の生産量とならず、より深い場所での炭鉱作業が求められ、以前より多くのシリカを含む採掘環境にさらされているためという。

(石炭開発部 福水 理佳)

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